本店が眠った1年半、神社前の焙煎所がコーヒーを支え続けた
九品仏川緑道を奥沢方向へ歩き、商店街を一本抜けると、奥沢神社の鳥居が見えてくる。その向かいに、7席の焙煎所がある。1980年から続く老舗喫茶の2代目が、本店の建て替え休業の4ヶ月前に始めた店。そのまま本店休業の1年半を一人で支え、本店が戻った今も9年並走している。
緑道から、もう一本
自由が丘駅南口の改札を出て、九品仏川緑道を奥沢方向へ。緑道沿いには「茶乃子」の本店がある。XAREA自由が丘1F、徒歩2分。1980年からこの場所で営業を続けている、自家焙煎の老舗喫茶だ。
ただ、今朝の目的地は緑道の店ではない。
緑道を離れ、奥沢の商店街を抜け、奥沢神社の鳥居の方へ歩いていく。徒歩で10分ほど。鳥居の向かいに、白い小さな店構えが見える。CHANOKO COFFEE ROASTERY。本店の2代目、齋藤陽介さんが2017年2月に始めた焙煎所だ。
7席の店内
扉を引くと、店内は7席。カウンターに LA MARZOCCO のエスプレッソマシンと Mazzer のグラインダー。奥に Fuji Royal の焙煎機が置かれている。
ハンドドリップは一杯ずつ。焙煎を終えた豆は、手作業で雑味の元になる粒を取り除いてから袋に詰められる。Hanako の取材記事には、雑味のない味を追求するための工程だと書かれている。
朝の店内。窓の外に神社の緑。
焙煎所が先に生まれた
時系列をたどると、この二店の関係が見えてくる。
本店の「茶乃子」は1980年創業。緑道沿いで自家焙煎を続けてきた老舗だ。
焙煎所のオープンは2017年2月。本店がまだ営業しているうちに、2代目の齋藤陽介さんが奥沢神社の向かいで新しい店を始めた。
その4ヶ月後、2017年6月に本店はビルの建て替えで一時閉店する。リニューアルオープンするのは2018年12月30日。本店休業のあいだの約1年半、緑道の店は閉まったままだった。
その期間、奥沢神社前の焙煎所だけが「茶乃子」の名前を残してコーヒーを淹れ続けた。先に生まれた小さな店が、本店の眠りを一人で支えた1年半。
本店が戻ってきた2018年末以降も、焙煎所は閉じなかった。2026年5月の今、並走して9年目になる。同じ家族が、二つの店で別々のコーヒーを淹れている。
二つの参照点
街の中で、この二店は別の景色に立っている。
本店は緑道沿いの賑やかな側。10時半から22時まで開いていて、夜は BAR TIME としてワインやスペイン産生ハム、アヒージョのタパスも出す。自家製カレーは開店時から続くメニューだ。
焙煎所は神社の向かいの静かな側。11時から20時、コーヒーと焼き菓子と、ドリップバッグ、ギフト用の豆。
緑道の店で長く座って一杯を味わうか、神社前の店で豆だけ買って帰るか。同じ家族の手から、二つの選択肢が出ている。
小さな分かれ道
焙煎所には、店主の妻、飛鳥さんがデザイナーとして関わっている。コーヒーだけの店ではなく、つくる人の生活がそのまま店になっている。
九品仏川緑道沿いの一杯と、奥沢神社前の一杯。
朝、どちらから始めるか。住人にとっての、小さな分かれ道がここにある。