鞄と歩む時間 — 土屋鞄、自由が丘で16年
画像はイメージです。 Photo: Unsplash contributor / Lorem Picsum (Unsplash License)
記録 目黒区自由が丘2丁目 (北口) 読 2分

鞄と歩む時間 — 土屋鞄、自由が丘で16年

自由が丘北口から徒歩約10分、自由ヶ丘学園高校の向かい。土屋鞄製造所が2010年に開いた路面店で、いま「使い込まれた革」が並んでいる。住人が手放した自社の鞄を、職人が修理して、また住人の手に渡す。会期は5月18日まで。

#signature-shop#leather#craftsmanship#sustainability

16年使われた革と、これから使われる革

駅前の人通りが嘘のように静かになる、自由が丘の北口。賑わいから少し離れた住宅街の角に、グレーと白を基調とした路面店がある。土屋鞄製造所、自由が丘店。店内には今、新品ではない鞄が並んでいる。誰かが何年か使い、手放し、職人が直した革製品たち。価格は新品の40〜75%程度に抑えられ、約750点。会期は5月18日まで。

ポップアップの名は「TSUCHIYA REUSE」。土屋鞄製造所が2021年に始めた事業で、自社で売った鞄や革小物を引き取り、修理して、また売る。今回は自由が丘、西新井本店、京都の3店舗で同時開催されている。

ふたつの時間軸が交わる場所

土屋鞄製造所の創業は1965年6月、足立区。今年で61年になる。自由が丘の路面店がオープンしたのは2010年6月5日、本店・鎌倉・白金・京都・神戸に次ぐ6店舗目だった。あれから16年。

開店当時の自由が丘経済新聞は、店舗のコンセプトを「鞄と革のラボラトリー(研究室)」と紹介している。40坪の店内、グレーとホワイト、無垢の木材。奥には複数枚の本革を並べたショースペース。ただ鞄を売るのではなく、革という素材そのものを学び、感じる空間として設計された。「革を感じる、革と親しむ、革を学ぶ」という言葉が、今も公式の店舗紹介に残っている。

61年と16年。創業からの時間と、街と歩んだ時間。そのふたつが、今回のリユース企画でひとつに重なる。長く使われた革を、長く作ってきた職人が直し、長く店を構えた街でもう一度手渡す。

西新井から自由が丘へ、革が往復する

リユース品の修理は、東京・西新井の工房で行われる。土屋鞄の本社がある場所だ。引き取った製品は、状態に応じて手が入る。革のクリーニング、保革、補色。内装の張り替え。ファスナーなど破損したパーツの交換。糸のほつれ直し。リユース専門の職人が、ひとつずつ見て、ひとつずつ直す。

今回のポップアップで並んでいるなかには、過去に数量限定カラーとして販売され、今はもう廃番になった製品もある。オイルヌメのジップトップショルダー、トートバッグ、バックパック。「これまでの歩みを感じる製品」と告知文にはある。

数量限定で出して、誰かが買って、何年か使って、土屋鞄に戻して、職人が直して、自由が丘の店頭に戻ってきた。その経路を想像すると、ひとつの鞄の中にずいぶん長い時間が畳み込まれていることに気づく。

「自分が出した製品が、次の人に渡っていく」

リユース事業を担当する CRAFTCRAFTS 部の課長、大西俊明氏は、自由が丘経済新聞の取材にこう答えている。

自分が引き取りで出した製品が、きれいになって次の人に渡っていくところが見えてよかった、などの声を頂いている

引き取りキャンペーンは公式 Web、17店舗の店頭、郵送のいずれでも受け付けている。引き取りに出すと10%オフのクーポン(最大25,000円割引、3ヶ月有効)が出る仕組みだ。手放す人が、次の鞄を選ぶときに使える。

自由が丘の住人が16年前にこの店で買った鞄が、いま同じ店に戻っている可能性がある。あるいは、今日この店で誰かが手に取るリユース品が、5年後にまた別の暮らしへ渡っていく。引き取り、修理、再販。プロセスとしてはそれだけだが、街という単位で眺めると、革が住人の暮らしの間を循環している。

CRAFTCRAFTS という言葉

土屋鞄が2021年に立ち上げたプロジェクトの名前は CRAFTCRAFTS という。ケアサポート、リペア、リメイク、リユース。この4本柱で、自社製品の「その後」を引き受ける仕組みになっている。

ケアサポートは手入れ。リペアは修理。リメイクは別のかたちへの作り変え。そしてリユースは、引き取って、直して、また売る。鞄を作る会社が、鞄の一生に最後まで関わるという考え方だ。

2010年のオープン時に語られた「鞄と革のラボラトリー」というコンセプト。その同じ店で2021年から CRAFTCRAFTS が動き出した。革を学ぶ空間で、革と長く付き合う方法を提案する。同じ場所で、ひとつのテーマがゆっくり育っている。

5月18日まで、自由が丘北口で

会期は5月18日まで。営業時間は11時から19時、火曜定休。場所は自由が丘2-6-19、北口から少し歩く。駅前の人通りを抜けて、住宅街に入ってからもう少し。自由ヶ丘学園高校の向かい。

新品の鞄が並ぶ店としてではなく、今回は使われた鞄が並ぶ店として、ここに立つ。革の表情、ファスナーの艶、内装の張り替え跡。職人の手が入った場所を目で追っていくと、この鞄が辿ってきた時間と、これから辿る時間が、店内で交差している。

61年、16年、そして一個一個の鞄が抱える数年。自由が丘という街で、革が往復している5月。