駅南口から5分、住宅街の1階でヨーロッパを開ける古着屋 ― エロティック
自由が丘駅南口から歩いて5分。奥沢の住宅街に、ぽつんと1階のガラス戸がある。 「あえて古着屋がない街」を選んで2022年9月に開いた店が、3年目の半年で全国のファッションメディアに2度取り上げられた。 棚にはC.P.Company、Stone Island、エルメス。値札は6万6千円から55万円まで。
南口を渡って、住宅の一角へ
南口を出て、駅前の賑わいを背中に置いて歩き出す。5分ほど。信号を渡り、飲食店の並びが途切れ、住宅街の空気に変わったあたりで、1階のガラス戸が見えてくる。奥沢5-40-12、南国ビルの1階。営業は14時から21時、不定休。
看板は控えめ。中を覗くと、棚と棚のあいだにゆったりと余白がとってある。古着屋というより、ハイブランドのブティックに近い佇まい。店の名前は「エロティック (EROTIC)」。
「古着屋がない街」に、あえて
オーナーは杉本陽介さん。静岡県出身、元公務員の経歴を経て、原宿の「キンセラ」と下北沢の「フランクブラック」で13年間、店長とバイイングを担ってきた人だ。コロナ禍の後、2022年に独立してこの場所に店を構えた。
自由が丘を選んだ理由は、はっきりしている。杉本さんは自由が丘を「ブルーオーシャン」と位置付けた。カフェ、雑貨、スイーツの街として知られる一方で、古着屋の顔は薄い。だったら、そこに開く。街の空白地に、狙って一店を落とす判断だった。
コンセプトは「誰もが取り入れやすい”いい古着”をそろえる」。棚を眺めていると、その言葉の意味が伝わってくる。
C.P.カンパニー、ストーンアイランド、エルメス
品揃えは、メンズ7割、ウィメンズ3割。並んでいるのは、C.P.カンパニー、ストーンアイランド、エルメス、エンポリオ・アルマーニ。マルジェラ期のエルメスも棚にある。80年代のC.P.カンパニーのジャケットが22万円。価格帯は66,000円から550,000円まで。目の前に並んでいるものを見ると、その価格の理由がわかる。
買い付けはヨーロッパ現地で、年に4回。ディーラー経由で仕入れる。MEN’S NON-NO WEBの記者は、この店のストーンアイランドの在庫について「これだけの数がそろっている古着屋はほかにない」と観察している。エルメスのヴィンテージジュエリーもマニアが選んで買っていく品揃えだ。
古着屋という言葉から一般に連想される、詰め込まれた棚と山積みの服。この店にはそれがない。1点1点、ゆったりと置かれている。それが値段の説明にもなっているし、街の空気にもなじんでいる。
3年目、半年で二度の掲載
2025年12月30日、MEN’S NON-NO WEBがこの店を特集した。「住宅街にポツンとある古着店」という言い方で、立地の意外性を前面に出していた。
そして半年後の2026年6月30日、今度はWWDJAPAN.comが「東京ビンテージショップガイド for GIRL’S」でこの店を紹介した。ブランドディレクターでモデルの紗羅マリーさんが取材で店を訪れ、「ずっと来たかった」と語っている。
3年目にして、半年で全国のファッションメディアに二度取り上げられた。街の空白地に開いた店の、この半年の記録である。
南口を渡ってみる
北口の商業街を歩き慣れた人にとって、南口を渡って5分の住宅街まで足を延ばす習慣は、そう多くない。奥沢5-40-12という住所は、地図で確かめてはじめて「駅からこういう距離感なんだ」と腑に落ちる番地だ。
営業は昼下がりから夜まで。ガラス戸の向こうに、66,000円から550,000円までの棚がある。南口を使う時、5分だけ違う方向に歩いてみる価値がある。