路地奥の一軒家で23年 — BROCANTE、目の前に来た船に乗ったふたり
自由が丘3-7-7、駅から少し離れた住宅街の路地奥。シャビーな一軒家でフランスの古道具と植物が同居して23年。店主夫妻は30歳と生後6ヶ月の子を抱えて開業し、いま週4日、午後だけ扉を開けている。
路地を曲がった先の、剥げたペンキ
自由が丘 3-7-7。駅から少し離れて住宅街に入り、路地をひとつ曲がった先に、その一軒家はあった。
アイスバーグというバラの品種が、外壁に絡んでいる。ペンキは少し剥げている。看板は控えめで、BROCANTE と書かれている。フランス語で古道具を指す言葉。
扉を引くと、大きな木のテーブルの上に、植物が並んでいた。
23 年前の、ひとつの判断
店ができたのは 2003 年。店主の松田尚美さんが 30 歳のときだった。
もともとは、ガーデナーである夫の打ち合わせ場所として、フランスから買い付けた家具や雑貨を置く予定だった。それが、夫が自由が丘で物件を見つけてしまった。松田さんの両親が、かつて自由が丘の住民だったことも、何かを後押しした。
開店時、第一子は生後 6 ヶ月。店の奥で育児をしながら、表で接客をしていた。
「目の前に来た船に乗るしかない」
北欧、暮らしの道具店のインタビューで、松田さんはそう振り返っている。本当は専業主婦になりたかった、と語る一方で、夫とフランスを旅して買い付けた家具と植物を、自分の手で店に並べていった。一度は倒れたこともあった。長男が保育園に入ってから、少し息がついた。
店内のいま
午後の店内。アンティークの家具と植物が、同じ床に置かれている。家具は装飾品、植物は商品。けれど、どちらが主役かは、ひと目では分かれない。
価格には幅がある。ハーブ苗が 1 鉢 300 円。一方で、足つきの植木鉢は 26,500 円。ガーデンテーブルは 38,000 円。LED ライトは 4,800 円。プラスチックの植木鉢が 648 円から。数百円から数万円までの「美しいガラクタ」が、同じ棚に並んでいる。
最近の入荷には、トルコやモロッコのヴィンテージ布もあった。
「植物も、アンティーク家具も、少しずつ成長していくもの」— goodroom journal の取材で、店主はそう話している。アンティークは古びていく、植物は伸びていく。方向が逆のものが、同じ空間で、同じ時間を生きている。
23 年という時間の重み
23 年前に始まった店が、今日も 13 時に扉を開けている。火・水・木は休み。金から月までの 4 日間だけ、路地奥の一軒家に灯りが入る。
生後 6 ヶ月だった子はもう、23 歳前後になっている。店の奥で育った子どもがいた事実は、いまの店内のどこにも書かれていない。ただ、木のテーブルにも、ペンキの剥げた壁にも、23 年分の手入れと、23 年分の植物の入れ替わりが、薄く積もっている。
路地の奥に残るもの
駅前から少し離れて、住宅街の路地を曲がる。看板は探さないと見つからない。それでも、扉の奥には、フランスの古道具と、店先の植物と、店主夫妻の 23 年が、同じ床に置かれている。
午後 1 時から 6 時まで、週 4 日。路地奥の一軒家は、今日も静かに開いている。